『赤朽葉家の伝説』(桜庭一樹/東京創元社/ISBN:4488023932)

「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。2006年を締め括る著者の新たなる代表作、桜庭一樹はここまで凄かった!

版元情報より。3代記というとパール・バックの『大地』くらいしか思い出せない私ですが、その『大地』同様に第一部から引き込まれる。日本でぎりぎり「神話」が存在しえた時代・地方を舞台に拾われ子・万葉の成長と特殊能力によるエピソードを幻想的に描く。第一部は「神話」。
第二部は万葉の娘にして元ヤン漫画家・毛毬の物語。ヤンキー時代は80年代文化真っ盛り。その描写がノリノリで笑いが止まらない。豪快に生きながらも「家」を大事にした毛毬の物語は急に閉じる。第二部は「疾走」あるいは「暴走」。
第三部はいわば現在。「家」との関わりも薄くなり特別な能力もない瞳子の物語。祖母・万葉が死ぬ直前に残した言葉を探っていくうちに色々なものと関わりとある真相にたどり着く。そこから瞳子の物語は始まる。第三部は何だろう?「回帰」とか。
日本の現代史、産業や文化の移り変わり、「家」の在り方を強烈な個性で描く波乱万丈の物語でした。瞳子に「なにもない」状態だったのがまさに現在を表しているのかもしれませんね。これから物語は始まる。3代の一つ前、タツの物語も興味深いですねぇ。